
この夏、小学3年生の息子はオーストラリアの現地校で、約10週間の「ターム留学」に挑戦しています。出発前は「新しい世界でどんな刺激を受けるだろうか」「英語力がどれだけ伸びるだろうか」と、親としてさまざまな期待を抱いていました。しかし、1ヶ月半が経ち、最も大きな気づきは別のところにありました。それは、息子が「困難を乗り越える力=やりきる力(グリット)」を着実に身につけている、ということです。
こちらに来て3週間ほど経った頃、それまで単語の発話中心だった息子から、「The elephant is heavy and big.」といった文章が飛び出すようになりました。さらに6週目には、バスの運転手さんが話しかけてきた内容を私に通訳してくれるまでに。しかし、この目に見える英語力の伸び以上に、彼の中ではもっと大きな変化が起きていました。「毎日、英語力が足りないなって思うし、失敗しちゃったって思うこともたくさんあるよ」そう語る息子が教えてくれたのは、失敗を恐れないことだけでなく、失敗した後にどうするかが大事、ということでした。
「“Handballある?”って聞かれたのに、“やる?”だと思って“Yes!”って言っちゃったんだ。そしたら相手が“ないの?”みたいな顔して。あ、間違ったって気づいて、“Sorry, I don’t have handball.”って言い直した。こういうの、毎日だよ。でも、大丈夫。言い直せばわかってくれるから!」完璧な英語でなくても、間違いを訂正して、もう一度伝えようとする。その一歩踏み出す勇気が、周囲の人たちとの信頼関係を築く鍵になっているというのです。
息子はさらに、この経験から学んだ大切なことを語ってくれました。「英語があまり話せなくても、単語が一つでもわかれば大丈夫。文章を言えたらかっこいいけど、それよりもっと大事なことは、全部言えなくても、一つの単語だけでもわかったら”Yes”なのか”No”なのかをはっきり言うことだよ。どっちか言えばわかってくれるし、”What’s?”とか”I don’t remember”って言えば、みんな優しく教えてくれるから。」慣れない環境での学校生活の中では、失敗や誤解も、心細い瞬間もあったはずです。けれども、それら一つひとつを自分なりに受け止めて振り返り、「どうするべきか」を考えて着実に前へと歩みを進めているのです。そして、その積み重ねが、本人の揺るぎない自信につながっているのを感じます。
今回の留学は、私たち家族にとって大きな転機となりました。海外での経験は、単に英語力を向上させるだけではありません。それ以上に、「困難にぶつかったときに、逃げずに立ち向かう力(グリット)」を育んでくれるのだと知りました。彼は今、「もっと英語がわかるようになりたい」と、自ら英語アプリをダウンロードして語彙を増やしたり、現地で購入した絵本のページを自らめくったりするようになりました。誰かに言われたからではなく、自分の意思で学び続ける姿に、親として大きな成長を感じています。
挑戦して失敗し、それでも諦めずにやりきる経験こそが、子どもの成功体験となり、揺るぎない自信となり、さらなる成長へとつながっていきます。それは、海外での特別な機会に限られるものではありません。今回は、海外留学という大きな舞台で気づいたことではありますが、その本質は、身近な日常の挑戦にも通じています。日々の生活の中での小さな挑戦や失敗、そしてそれを乗り越えようとするプロセスを大切にすること。それこそが、何にも代えがたいグリットを育むのだと、改めて気づかされました。私たち大人が子どもに与えられる一番のギフトは、完璧な結果や成果ではなく、挑戦し続けるそのプロセスを信じ、心から応援し続けることなのではないでしょうか。