大学入試と聞いて思い出すのが、十数年前に経験した受験勉強の記憶です。お守りのように持ち歩いていた単語のカード。マーカーで染まった教科書…。とにかく入るだけの知識を詰め込んで挑んだ本番は、ペーパーテストの結果だけが合否の鍵を握る失敗できない大勝負。私だけでなく、多くの親世代のみなさんもまた、大学入試については同じようなイメージを持っているのではないでしょうか。
ところが昨今の大学入試では、わたしたちの想像を超える新しい取組みが始まり、大きな変化が起きています。それは、特色のある私立大学だけに限った変化ではありません。実は今、大学入試は国を挙げての転換期を迎えています。文部科学省が旗振り役となり「高大接続改革」に取り組んでいるのです。今回のテーマは「新しい大学入試」。実際にどのような変化が起きているのか、2回に分けて、お話していきたいと思います。
2020年、文部科学省は10年ぶりとなる学習指導要領の改訂を行う際、同時に高大接続改革を掲げ、入試についても大きな転換に踏み出しました。彼らの主張する高大接続改革は、以下のように説明されています。
グローバル化の進展や人工知能技術をはじめとする技術革新などに伴い、社会構造も急速に、かつ大きく変革しており、予見の困難な時代の中で新たな価値を創造していく力を育てることが必要です。このためには、『学力の3要素』を育成・評価することが重要であり、義務教育段階から一貫した理念の下、「学力の3要素」(1.知識・技能、2.思考力・判断力・表現力、3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)を高校教育で確実に育成し、大学教育で更なる伸長を図るため、それをつなぐ大学入学者選抜においても、多面的・総合的に評価するという一体的な改革を進めていく必要があります。
by文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/detail/1402115.htm
変化の激しい予測不可能な時代の中で新たな価値を想像していくために、新たなアプローチ方法で学校教育を変えようとしているということは、先の記事でもお話をしてきました。しかし、学習指導要領を変えたところで、出口で待ち受けている大学入試やその先にある大学での学びが変わらなければ、教育現場はなかなか変わっていきません。そう考えた文部科学省は、大学入試そのものを大きく転換させ、高校・大学入試・大学の3つを一体とした教育の改革に踏み切ったというわけです。
では、入試のスタイルはどのように変化したのでしょうか。大きな変化としては、2つあります。一つは、大学入試センター試験に代わって「大学入学共通テスト」が始まったことです。前者については、変わったのは名称だけではありません。試験の内容についても、従来は知識や技能を図る選択式の問題で構成されていたのに対し、新しいテストでは、思考力や判断力、表現力など実社会に対応する力を測るために記述式の問題が多く採り入れられています。また、問題の内容も現代の社会を映し出すようなテーマが選ばれ、その新鮮さが話題にもなりました。
そして、もう一つの変化が、「推薦入試」へのシフトです。従来のペーパーテストだけでは、知識や技能といった一面でしか受験生の能力を測ることができないと判断したのでしょう。新学習指導要領で掲げている「学力の3要素」を多面的・総合的に評価する新たな選抜方法の開発・普及が急務になっているのです。文部科学省はすでに取り組みを強化しており、各大学が実施する個別の選抜についてルールの策定を行ったほか、新たな選抜方法による事例を集めるなどの動きを活発化させています。こちらに各大学が取り組でいるユニークな入試選抜事例が紹介されていますので、ご覧になってみてください。
加えて、あまり知られてはいませんが、すでに私立大学では、従来AO入試と呼ばれていた総合型選抜や、指定校推薦などの学校推薦型選抜と合わせると、推薦入試の割合が50.6%を占めており、必要な学力をペーパーテストで測る一般選抜の割合は減少傾向にあります。大学入試といえばペーパーテスト一発勝負、という私たちの持つイメージは古くなりつつあるのです。
小中高等学校での学びの変革に加えて大学入試にも起きている変化の波。大きな変化の流れを捉えたところで、とりわけ注目が高まっている「総合型選抜」について、次回の記事でもう少し詳しく紹介してみたいと思います。